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Oneboy

One Boy's TENNIS Diary カテゴリー:~全力打球~編

プロテニスコーチが素直な想いを綴るテニスダイアリーです。
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01

★第19試合 『IZAKAYAコミュニケーション』

「これは?」
「イースタン?」
「・・・じゃあ、これは?」
「・・・・ウエスタン?」
「じゃ、コンチネンタルはどう持つんだよ?」
「・・・こうっすか?」
「バ○!それじゃ一緒になっちゃうじゃんか!」

なんて質問だか説教だか・・・・良く分からない会話を繰り返しながらのミーティング。

もちろん近場の居酒屋の一席だから、そんなにお堅いものじゃないけどね。
しっかし・・・最近の奴らはグリップすらまともに答えられんのかね?
「じゃあ、お前がいつも握っているグリップは何て言うの?」
って質問には・・・・
「いや、ジュニア時代から、そうやって持てって言われてたんで・・・わかんねっす!」

それでいいのか?新米コーチ?
「それじゃレッスンで伝えられないだろ?ほら、今しっかり覚えろ」
で、飲み屋なのに、ラケットを出して、あ~だ、こ~だと握ってる。

暫くすると、そいつの恋愛事情に話が流れた。
ま、グリップは完璧になったから、許してやったんだけどね。
「最近別れちゃったんですよねぇ・・・」
「へぇ。ま、ドンマイだな」
「どっかに落ちてないかな~?」
「何が?」
「いや彼女が」
「そんなわけ無いだろぉ」
「いや可能性がゼロじゃなければあきらめないっすよ!」
「ゼロだよ。で、何で別れたの?」
「ん・・・まあ、何となくっす」
「あれ、引きずってんの?」
「や・・・そんなんじゃないっすけど・・・」
「ドンマイ。結局、お前もテニスの道を選んだ不器用な男ってわけだな」
「『お前も』って一緒にしないで下さいよ!」
・・・・なんて、やり取りの後。
テニスでもレッスンでも何でもそうだが、大事な事は、失敗を反省し、次に活かす事。

てな事を酒を飲みながら話したわけ。

「次はもっといい恋が出来るよ。さ、帰るか」
「そっすね。反省を次に活かす!ですね」
「そう!で、これは何ていうグリップ?」
「・・ぐ・・・お会計っすか?ごちそうさまで~す!」
「全然活かされて無いじゃんかよ!」
「じゃ、もう一軒、いやもう一回反省会しますか?」
「そんな返しだけはうまいのな!」
カテゴリー:~全力打球~編
05/08 15:44
02

★第18試合 『3600秒の真剣勝負』

「叩いた~!」
と言ったジュニアの声を聞いて、チーフコーチがラリーを止めてそこに近づいて行った。
「何だよ?どうした?」
「叩いた。ラケットで」
俺もラリーを止めて、その状況を見ていたけど、
明らかにチーフの顔つきが怒ってるのが分かった。
「何で叩いた?」
「・・・・」
別の奴が、
「ふざけてた」
「どっちが?」
「どっちも~」
チーフはラケットを置いて、そこに座り込んでジュニア達を見た。
「見てたよ。君が叩いたところも、ふざけてたことも、み~んな見てた」
「・・・・」
「ラケットは叩く道具なのかい?」
「違う・・・」
「じゃあ叩くな。絶対にだ。ラケットはボールを打つものだ。
テニスをするためのものだ。
これからも君がラケットで人を叩くというなら、今すぐコートから出ていきなさい」
「・・・・」
「どうするんだ?」
「・・・ごめんなさい。もう叩かない・・・」
「よし。じゃあ君逹は何でふざけてたんだい?」
「・・・・・」
「何でだい?」
「コイツが悪口言ってきた・・・」
「何て?」
「下手くそって」
「だってコーチとのラリーでアウトばっかりだったから」
「だから下手くそって言ったの?」
「・・・うん」
チーフの顔が少し優しくなって、
「いいか?アウトすることは凄いことなんだよ。
ボールがたくさん飛ぶってことだからさ。これはスゴいこと。」
「・・・・」
「分からないか・・・。今は分からなくてもいいよ。
だけど下手くそって言ったことは謝りなさい」
「・・・・ごめんなさい」
「よし」
これでまだ終わらなかった。
「で、君達はふざけてるこの子逹を何故止めなかったんだい?」
思いもよらなかった方向にお説教が向いたんだ。
「・・・・」
「みんな同じコートでテニスをしているんだから止めなきゃダメだよ。
なんでか分かるか?」
「仲良くしなきゃだめだから?」
「うん。それもある。けどね、もっと大事なことがあるんだ。
・・・いま、コーチがラリーを止めて何分たった?」
「3分くらい?」
「そうだね。その3分でコーチと何回、何球、何人ラリーができるの?どれだけ上手になれるの?みんなは上手くなりたくないの?」
「・・・なりたい」
「じゃあ1時間しかないレッスンでふざけてる子がいたら、みんな同士で注意しなきゃダメじゃない?」
「・・・はい」
「じゃあ次のレッスンでは、いや今から気を付けようね。よし!ラリーを再開しようか!」

レッスン後のコートでチーフが俺に言った。
「レッスンはさ、1時間しか無いだろ?このたったの3600秒で俺達はテニスの素晴らしさ、楽しさ、マナーを伝えるんだぜ。あの子達の中から、世界に通用するプレーヤーが出てくるかもしれないし。手は抜けないよな・・・」
「けど、今日の180秒はきっと大きな意味を持っていますよ!」
「だよな!」
「ですよ!じゃあ僕の為に、帰りに3600秒ほど付き合ってもらえます?」
「お前の成長の為に?仕方ねえなぁ。今日は一軒だけな!」
「やりぃ!じゃ、着替えてきま~す!」
カテゴリー:~全力打球~編
05/01 15:02
03

★第17試合 『忘れられない夜』

バイト時代の先輩が転勤になって、そこに呼び出しをくらった。
横浜から一時間?(遠いなぁ、まったく)
駅に着いて、周りを見てみると、意外に栄えてる街並みが飛び込んできた。
あとから先輩は「駅前だけね」なんて言っていたけど。
駅前の人混みの中から、先輩の姿を探す。
タッパがある人だから、結構すぐ見つけられるんだ。
と言っても、俺の方が数センチ高いんだけどね。
「おひさしぶりっす」
「おう。おまえ腹減ってるよな?何食いたい?」
「いや何でもいいっすよ」
「じゃ、俺、餃子とレバニラ。いくぞ」
「うす」
何と言うか、気を使ってくれてそうで、でも結局最初から行くところは決まってたんだろうな。
だって昔からそんな先輩だしね。
まあ、ある意味ワガママなんだな。
で、餃子を食べながら一杯。
「どうなんだよ?最近は?」
「いや〜大変す。なかなかうまくは行かないですが、これからですよ」
「そうか。自分の選んだ道だから、納得できるまでしっかりやれよ」
「うす。向かい風はまだまだ吹いてますね。負けませんけど」
「風見鶏、ね」
(※参照:One Boyの『待ってろ!ジュニア日記』第15ゲーム『風を探して』)
な〜んて近況報告があって、先輩はレモンサワーを注文。
相変わらず飲む人だ。
「テニスは?やってんの?」
「いや、それがですねぇ・・・・」
「なんだよ、やってないんか?」
「なかなか機会がなくて・・・・」
「機会なんてもんはなぁ、自分で作るんだよ。仕方ねぇな。試合にでもでるか?」
「いいっすねぇ!」
「んじゃ、ちょっとマッテロ」
そう言って、携帯をいじり出した数分後。
「決まった。○月○日の○曜日。男ダブね。練習しとけよ。・・・すいませ〜ん!!」
「は?」
「だから、申し込んだから、試合。男ダブで。あ、レモンサワーもう一杯ね」
「ええっ?!」
「何だよ?嫌なの?お前はなんか飲む?」
「あ、じゃあレモンサワーで。
(嫌だって言ったって、どうせダメなんでしょ?)
そうじゃないっすけど。・・・予定も空いてました」
「じゃ、練習しとけよ。お前、バックサイドだよな?
ダブルス組むのなんて一年以上ぶりか」
なんて会話の中、互いのテニスの話になったり、昔のバイト先の思い出話になったり。
「出るからには勝ちたいっすね!」
「当たり前よ!負けに行くためにする戦があるか?」
「ですよね!じゃ、優勝で!」
「最善を尽くそう!とりあえず今日は決起集会って事で、派手に遊んじゃうか?もうすぐアイツも来るし」
「そっすね!あ、来ましたよ!」
「お待たせっス!あれ?もう飲み終わりですか?じゃ、ボーリングでも行きません?」
「いいね!じゃ、とりあえず3セットマッチでいくか!」
これこれ、このノリなんだよね。
やっぱり変わってなかった。
ちょい酔いの俺達は残っていたレモンサワーを一気に飲み干し、街へ出る。
「今だけは忘れちまおう」
そんな風に決めた夜だった。
カテゴリー:~全力打球~編
04/24 21:17
04

★第16試合 『桜チル頃ニ』

この季節になると、あの頃に見た桜を思い出す。

ちょっとばかりテニスをした後に、何気なく行った公園。
そこには、「まさに満開!」と言っていい桜が沢山あった。
車の窓から顔を出してみると、フワリと花びらが飛び込んでくる。
いくら舞ったとしても、無くなる気配を微塵も感じさせない、そんなトコロが好きだった。
そう、好きだった。
そこでは、春の暖かさも手伝ってか、車を駐車場に止めて少しだけ眠った。
その時に流れていたBGM。
なんの事は無い、それだけの事。
ただ、それだけの出来事。

人はみな 心の岸辺に 手放したくない花がある
それはたくましい花じゃなく 儚く揺れる 一輪花
花びらの数と同じだけ 生きていく強さを感じる
嵐 吹く 風に打たれても やまない雨は無いはずと
桜の花びら散るたびに 届かぬ思いがまた一つ
涙と笑顔に消されてく そしてまた大人になった
追いかけるだけの悲しみは 強く清らかな悲しみは
いつまでも変わることの無い
君の中に 僕の中に 咲く Love・・・
(桜/コブクロ)


こないだの春の嵐と長く降り続いた雨で、流石の桜達も・・・。
散る気配のなかったはずのコイツラとは、また来年までサヨナラ。
太い幹から伸びた枝には、もう新しい緑の新芽が飛び出している。

うちのスクールのジュニアクラスでは、進級、進学に伴い、大きく顔ぶれが変わる時。

あいつら、レッスンでは、様子を伺うような表情でこちらを見ている。
この“新芽”達との勝負は、今、この瞬間から始まっているんだな、って。
蕾のままになんかさせないよ、絶対。
来年、きっちり咲こうな?

近くの学校も始まり、通学路を歩いている学生の姿をとてもまぶしく感じながら、「俺もあんな時代があったな・・」なんて、また昔を思い出す。
気付くと、いつの間にか年齢があがっちまったもんな。
だけど・・・だけどココは、心は変わってないよ。
アツい何かはまだまだ流れてる。

さあ、今日もコートへ!
前を見て駆け抜けよう!
カテゴリー:~全力打球~編
04/17 14:13
05

★第15試合 『日記』

「へぇ、とうとう引越ししたんだ」
「ん、まあな」
「で、どうだよ、新しい家の住み心地は?」
「変わらないよ、一人暮らし用のアパートなんてどこ住んでも一緒」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもん」
「あの辺りは、ちょっと先に行くと大きなショッピンセンターがあって何でも揃うんだぜ。そうそう、でっかいパチンコ屋もあったな。もう行った?」
「あぁ、ショッピングセンターには行ったけど、パチンコは行ってないよ。もうやめたし」
「あ、そうなの?けど飲み屋も近くにないし、やることないんじゃない?」
「いいんだよ、愛する部屋に直帰するから。昨日なんか自炊しちゃったぜ。何年ぶりかな?まあ失敗して鍋を焦げ付かせたけど」
「何というか・・・やることが堅いというか。愛する部屋じゃなくて、早く人を見つけろよ。メシも作ってもらわなきゃなぁ!」
「余計なお世話!お前は実家だからメシが出てくるし、いいよな」
「俺はその分入れてるから、家に」
「当たり前だっつぅの」
「はいはい」
「そういえば、この近くにテニスショップみたいなのって無いの?」
「あぁ、小さいのは有るよ。駅前に1軒あったな。もうちょっと大きい店になると、車か電車で行かないと無いかもな?なんで?」
「いやさ、知り合いの子がテニス始めたんだけどさ。まだ4歳なんだけどね。近くのスクールに入って、ラケットはそこで買ったんだって。けどね、ボール?普通のボールじゃなくて、もっとベコベコの柔らかいボールを探してるんだって。スクールで注文すると何十個単位になっちゃうみたいで、困ってたからさ。もし近くにあるなら買って送ってやろうと思ってさ」
「へぇ、いいとこあるじゃん。なんなら連れてってやろうか?今日車だし」
「ほぉ、いいとこあるじゃん。けど今日はダメなんだ」
「なんで?」
「いや、人が来る予定なんだよ、夜」
「なんだよ、彼女できた?」
「ちゃう。後輩が近くの草大会出るらしく、泊まりにくるんだ」
「もう利用されちゃってるのね。溜まり場になる予感・・・」
「活用と言ってもらいたいね。でさ・・・・見た?伊達」
「おお!復帰だろ?嬉しいよな。あのストロークがまた見れるかと思うとワクワクするよ」
「だよな~。」
「うん」
「・・・・・ちょっと練習しない?」
「いいね!じゃあボール落すの禁止ね」
「言うと思った。上がりっぱなオンリーね。ライジング勝負!」
「OK!!」
カテゴリー:~全力打球~編
04/10 13:16
06

★第14試合 『夢の途中で』

「コーチ・・・負けちゃったよ・・・」
いつもの威勢のいい元気な声はそこには無く、
どうしていいか分からない表情でラケットをしまっている彼の姿があった。
「うん・・・見てたよ・・・ナイスゲーム・・・ドンマイ」
一言一言しか言葉を発せなかった。
それ以上は言葉と一緒に何か違うモノが溢れてきそうだったから。

勝者がいれば必ず敗者が存在している。
それは、どうしようもない事実。

現に、反対側のコートには満面の笑みで友人と喜びを分かち合っている選手の姿。
ちょっと後ろに目をやると、母親らしき女性が泣いている。
よっぽど嬉しかったんだろう。
理由だって何となく分かる。
と言うのは、2人の関係は、言ってみればライバル関係だったって事で、今まで何度も対戦してきたって事。
ただ、結果は今回の逆のパターンが非常に多かったって事。

この大会は小学生までが対象だから、来年はもうどちらも出られない。
俺は、最後の大会で「優勝させたいなぁ」と考え、彼は「優勝したいなぁ」と思ってた。
でも、相手サイドは違ったのかもしれない。
俺達以上に「優勝」の二文字を意識していたのかも・・・。
もっともっともっと、ああしてあげてれば、こうしてあげてれば、なんて思ったりしたけど、後の祭りだよな・・・。
あいつに「来年頑張ろうぜ!」が、言ってやれない。
ただその事が、どうにもならないその事が悔しい。

運営スタッフでもある俺は、表彰式の時に準優勝の彼に「銀メダル」を渡す役だった。
その時に「おめでとう」を言ってあげたかったんだけど・・・・、
いや、言ったんだけど、その次に無意識に出てきた言葉があったんだ。

「ごめんね」

聞こえたかどうかは分からなかった。
もしかしたら声になってなかったかもしれないから。

帰りのバスの中、疲れ果てて寝ている彼。
彼はどんな夢を見ているのかな?
きっと、もう次に向かってる夢だろうな。
そうだよ、君はまだまだこれからだ!
この経験が大きなモノとして貴方に残りますように。
最後に、

「今まで本当にありがとう。これからもよろしくな!」

腹減ったな!
さ、早く家に帰ろうぜ。
カテゴリー:~全力打球~編
04/03 11:33
07

★第13試合 『それが大事』

今日は某所で打ち合わせ。
知識の浅い深い関係なしにぶつかる関係が好き。
だって仕方ないでしょ?
想い、思い、オモイの深さは人それぞれだしね。
あ!だからって勘違いしないでね。
足りない部分は受け入れます。
言い合いになることだって構わない。
いいんだ。
それが一歩目なんだから。

まあ、ミーティング後は、更なる打ち合わせだ!と理由づけして、
そこの地元オススメの居酒屋へ。
レバサシが旨い。
で、なんだかんだとカラオケ屋になだれ込む。
上司は早く帰りたいらしく嫌がりながら(とは言ってもホントは嫌がってない)誰よりも、うん、誰よりも楽しそうに歌ってる。
そんな中、若手の一人が、この歌を熱唱。
久しぶりに聞いて、なんかとっても胸に響いたね。

負けない事
投げ出さない事
逃げ出さない事
信じ抜く事
涙見せてもいいよ
それを忘れなければ
(それが大事/大事MANブラザーズバンド)

俺達は立ち止まってなんかいられないんだよ。
さあ、前を向いて進もう。
カテゴリー:~全力打球~編
03/27 15:25
08

★第12試合 『CHALLENGE!!』

対角に座ってる奴の言葉に対して、急所を打ち抜かれたような感覚があった。
食い足りてない焼肉のことなんか忘れちまったよ。
目を逸らしそうになったが、何とか耐えて、続けて話を聞いた。
まあ、焦げ付き始めた肉なんか気にならないくらいにイラついていたんだよ、実際。
だから、よく聞けたと自分を褒めてやりたい。

「何も分かってないんだよ、テニスの事」
はあ?
「じゃあこれ、答えてみぃや」
はぁ・・・。
「やっぱり何も知らんじゃないか」
・・・・はぁ。
「そんなんじゃアイツラが上手くなるはずあらへんやろが!ただのインチキじゃ!」
・・・・。
ぐう。

手元にあった御絞りを叩きつけて帰らなくて良かったぜ。
何でかって?
負けてっからだよ、今は。
いいか?
今日だけだ。
これからは俺は負けない。
いつか、ぐうの音も出ないくらいに言い返したる!
そして、ギャフンと言わせたるからな!
まずは知識を、自分の幅を広げよう。
すごい久しぶりの図書館になりそうだ。

ああ、今日は人生で三番目に入るくらい悔しい日だ。
だからこそ忘れないし、成長するチャンス。
明日から挑戦開始。

待ってろ!明日!
カテゴリー:~全力打球~編
03/20 20:31
09

★第11試合 『早朝の笑顔は』

ねぇねぇ、と肩を叩かれて、
「あれ、あの集団、先週もいたよね?」
まだ朝も早く、体は起きているが、頭は不完全状態。
何のことかよく分からずに、友人の視線の方に顔を向けるてみる。
何やら真っ赤なスポーツウェアを着た集団が駅前に広がっている事に気付き、確かに先週も見たことを思い出した。
「ね!なんかチラシ配ってたじゃない?何かな?この前はめんどくさくて受け取らなかったんだけど」
知っていた。
「テニススクールのチラシだよ」
性格なのか、目の前に出されたものは、必ずといっていいほど手を出してしまう。
まさに先週も性格通りの行動。
テニスに興味は無かったわけではないし、そのスクールを知らないわけでも無かった。
だけど、『テニスなんて・・・ねぇ』としか考えなかった。
そうそう、学生時代に体育の授業で、ちょっとやったことがある。
その時は、体育の先生が一生懸命ラケットを振っていて、なんだかその様子がとてもぎこちなかった印象が強く残っている。
「へぇ~。テニススクールね~。うわぁ!見て見て!おっきなラケットがあるよ!すっご~い!本物?なわけないか~」
「おっきいね、確かに」
宣伝の為だろう、身長程あるラケットを持って“声だし”している。
これなら嫌でも目に入るか。
「テニスかぁ。やってないな、最近」
「え?」
意外な一言に友人の顔を見直す。
「やってたの?テニス」
「あれ?言ってなかったっけ?学生時代バリバリの体育会系よ」
「あ、そう・・・・・」
「なんだぁ。テニススクールあるなら覗いてみようかな。ね?行って見ない?」
「うん・・・・」
「なに?乗り気じゃない?行こうよぉ。ほら、何とか王子も出てきたみたいだし。なんだっけ?」
「なんだっけね」
「冷たいなぁ・・・」
「・・・じゃあ帰りにでも行ってみる?」
「決まりね!なんだか燃えてきたわ!今日も一日頑張っちゃお!」

これも何かの縁かな。
張り切っている友人はもちろんチラシをもらっていたけど、例の如く、また私も受け取っちゃって・・・。
配っている子も感じのいい子だったなぁ。
笑顔がとってもニッコリしてて。
カテゴリー:~全力打球~編
03/13 15:02
10

★第10試合 『風の中の少女』

午前中の暖かな気候が嘘のように、冷たい風が吹き始め、重い雲が空を覆いだす。
頬に冷たい何かを感じたが、
「気のせいだ」
と自分に言い聞かせ、ジュニアにボールを出し続ける。

「大丈夫?頑張れる?」
身長と同じくらいのラケットを両手でしっかりと握り締めた小学2年の女の子は小さく頷いた。
今にもこぼれ落ちそうな涙を我慢しながら。
俺は、今日、その子に会った瞬間からの出来事を頭のなかで思いだし、整理し始める。
分からない。
その少女を悲しくさせている原因が掴めないまま、結局は雨が強くなってきてレッスンは中断。
「みんな中に入って!」
と俺が言い終わる前に、少女はコートを駆け出し、母親の元へ。
俺が何かしてしまったのか?
隣にいた若手コーチか?
クラスの悪ガキ大将のあいつか?
俺は色々な思いを抱きながら、親子の元へ急いだ。
何れにせよ、気付けなかった自分が腹立たしかった。

この子がテニスを嫌いになったらどうする?
彼女のこれからの大きな道を閉ざしてしまったらどうする?
言葉に出来ない悔しさ、辛さが大きな波になり俺を飲み込もうとしていた。
心の中では少女に謝り続けながら、
(ごめん、ごめんね)
「どうしちゃったのかな?」
少女の身長まで頭が下がるように膝を曲げ、腰を落とした。
必死に母親にしがみついた彼女はチラッと俺を見ただけだった。
悲しみの涙が俺の心を震わせ、押し潰されそうになった、その時。
「風がね・・・風が嫌いなんですよ、この子」
一瞬戸惑い、間違った反応だった気がしたが、ちょっと安心してしまった自分がいた。
「ああ、そうなんですか」
「ビューって音がね、嫌いなんだよね?」
彼女は小さく頷く。
それだけだった。
「じゃあ、帰ろうか」
母親の声に、また頷いただけだった。
「さよなら、またね」
そして、俺の声には小さな手を小さく振って応えてくれた。
「バイバイ、コーチ」

外は雨が上がり始め、風も治まってきたみたいだ。
もちろん俺の心の中も同じだった。
カテゴリー:~全力打球~編
03/06 12:21
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