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another side of tennis

Scene 211 [魔法にかけられて……]

余り乗り気じゃなかったが、家族の付き合いで「魔法にかけられて」を観に来た。
ロビーで携帯が鳴る。
休日気分台無しのダミ声。

「おはようっす」「昨日ちゃんと帰れたんですか?」「帰れる訳ないじゃん!」「だからタクシー乗った方がいいって言ったのに。どこ迄行っちゃったんですか?」「昨日別れた時、俺鞄持ってた?」「持ってましたよ」「本当に?紺色のやつだよ」「わかってますよ。俺が店の人から受け取って渡したんですから。茶色の縁取りでしょ?」「そうそう。やっぱ電車に忘れたな」

昨夜22時過ぎ。
「何時に出れる?」「ラストが雨中止なんで定時の22時半には出れますけど」「“あいつ”に電話で捕まっちゃってさ。じゃあ23時に小便横丁の寿司屋な」
電話の主はウチの社長。
“あいつ”とは某テニススクール代表だが、その前に社長の大学テニス部の後輩で、おまけに俺の中高テニス部の先輩。
全く世間は狭いって言うか、業界は狭過ぎる。
ここんところ“あいつ”からの誘いを2回連続で断わってるのもあって新宿へ。

暖簾をくぐると馴染みの大将が「毎度!久し振り!」と声をかけて来て、俺が二人を見つけて座ろうとしたら、仕草で「本当にそこなの?」と聞いて来る。
ちょっと不思議に感じつつ席についてその意味がわかった。
“あいつ”は完全に酩酲してる。
と言っても乱れてる訳じゃなくて、社長に「ああいうのは許せない」だの、「俺は頑張る」だのクダまいてる。
俺はけたけた笑いながら茶々入れてたけど、社長が「何でも自分に原因があるんだよ」とまとめて帰った頃から、そうも行かなくなった。
“あいつ”はカウンターに突っ伏して起きないから、仕方なく俺が支払い。
(こりゃ電車は無理だよなあ)と、靖国通りに出てタクシーを拾おうとしたら「何時?電車で帰る。大丈夫!」と背筋を伸ばして帰りやがった。
ちぇっ、タクシー便乗しようとしたのに、“あいつ”の方が数段上だった。
これじゃ呑み代払いに来ただけだぜ。
しかしまあショーケース的酔っ払いだったなあ。
それもテニスと言う名の魔法をかけられたって事にしとくか。
お互い一生テニスで浮かれて、テニスでうなされるんだろうな。

映画が終って劇場を出る時に、でかいパネルに目が止まった。

“拍手されるより、拍手するほうが、ずっと心がゆたかになる”高倉健
“いつまでも生徒”吉永小百合

「拍手されたいけど責任は負いたくない」「優しく教えてもらいたいけど叱られたくはない」
挙句の果ては他人の噂と自分の昔話しか出来ない奴等ばかりの今。
「〜される」事を望むより、謙虚に讃える、自分から学ぶ尊さ。
わかっちゃいるんだけど……沁みるなあ……。

そこに今度はゴールデン街からメール。
<シオンのチケット頼むね。ちなみにまだ店>
もう昼過ぎだって言うのに、今日も36時閉店か。

酒を呑まれるよりも、呑むほうが、ずっと心がゆたかになる……いつまでも酔っぱらい……

酒って言う魔法はタチ悪いからねえ。

2007.3.20
Higashioizumi


カテゴリー:SION
2008/03/20 20:32

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筆者紹介:坂東海


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