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another side of tennis

Scene 208 [DESTINY]

最近続いてた澱の様な気分を変えようと、小一時間も呑めないのに馴染みのバーに入った。
澱は消えはしないけど、マスターと一言二言交すだけで自分の本音と傲りがわかる。
今夜の澱は字面通り深く澱んでて、明日も引きずりそうだが、椅子を蹴飛ばし歩き出す気にはなる。
話が重くなりかけたところに、風俗好きの客2人が入って来て与太話に転じる。
「へえ~、今そんなのあるんだ」
興味はないけど、こんな夜を茶化すには丁度いい。
するとそこに若くて陽気な外人が5人入って来た。
壊れたCDの代りのカセットが流すジョン・デンバーに反応してるから、てっきりアメリカ人かと思ったら、オーストラリアから北海道迄スキーをしに来たとのこと。
(真夏のオーストラリアから日本まで来てスキーねえ……殊勝な奴等だ)なんて考えてたら、口が勝手に「ヒューイットはお前等のテニスヒーローなのか?」みたいな事を言ってた。
奴等は全員揃って肩をすくめ、一人は「ヒューイット・イズ……」と言って、ラケットをコートに叩きつける仕草をした。
陽気なオージーには、短気なヒューイットは器量の小さい男に見えるってことか。

隣の客は外人と話してる自分に舞い上がっちゃって、「俺はセリーヌ・ディオンが好き!」みたいなことを言ったら、困り顔で「彼女はカナダ人だよ」と言われてる。
せめてオリビア・ニュートン・ジョンだろう。
キッスの熱狂的ファンが多いって話もありか。

先頭で入って来て奥の席に座った奴が、奴等の中では日本語がわかるらしくて、奴の後ろについてきて入口付近に座った奴等は、「言葉がわからないと怖くて奥には行けないよ」とおどけている。
そりゃそうだ。
同じ国の人間同士だって、コミュニケーションが得意な奴はどんどんどんどん人の輪の中に入って行って、気付けばいつも輪の中心にいる。
コミュニケーションが苦手な奴はやっぱり“入口”辺りでもじもじしてる。

場は「日本でもラグビーはラグビーと言うのか?」だの、「日本はやっぱり野球だぜ!」だの、「こっち来て何喰った?」だの、「日本最高のスナック、柿の種喰ってみるか?」だのスポーツと喰いもんの話で盛り上がり出す。
あいつら「伊達公子は左手だけでも打つよね?!」って話しかけても来たな。
そうなんだよな、クサイ言い方かもしれないけど、スポーツは世界共通言語だ。
ふと、シャイなくせに芯が強い、ゴルフの若いティーチングプロが貸してくれた本の中の言葉が甦る。

人との縁、道具との縁、コースとの縁
ゴルフは「縁」が取り持つゲーム
「人」にささえてもらうには
人のなかに「入」らなくちゃね
これもゴルフのひとつの真情
ゴルフ青木流/青木功(新潮社刊)

あの野郎、本に語らせやがったな。
メッセージの発信方法は人それぞれだ。
“入口”辺りでもじもじしてても、そこからいくらでもコミット出来るんだ。
やるじゃねえか。

「後3分半で終りますよ」
部屋のスピーカーからの声で目を覚ました。
MRI検査の最中、閉所恐怖症じゃないが目を開けてる気もしなくて、リラックスさせる為のBGMとガンガン、コンコンと鳴る操作音を(海底で工事の音聞いてるみたいだな)と、目を閉じながら聞いてるうちに寝たらしい。
昨日はオージーのせいで、小一時間のつもりが遅くなっちまったもんな。
そう言えばあいつら、「明朝5時に築地に行く」って言ってたけど、起きれたのかねえ。

2007.2.28
Skytower


カテゴリー:word
2008/02/28 13:52

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筆者紹介:坂東海


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