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another side of tennis

[Another Side of Tennis] 坂東海

新宿ゴールデン街バーの片隅のテニスと音楽の与太話です。
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01

Scene 201 [Sad iPod]

[Another Side of Tennis]
坂東海

Scene 201
[Sad iPod]

iPodが壊れた……。
リセットで復活で何とか騙し騙し使ってたけど、この間見慣れないアイコンが出て来た。
気を失ったんだか、めげたんだかした顔のiPod。
どうやら【Sad iPod】って言うらしい。
確かに悲しい。
ちぇっ、数年前の誕生日プレゼントにAppleStore限定のレーザー刻印を入れてもらったやつなのに。
「じゃあiPod Touchですね!」
確かに、Touchは欲しいって言ったし、新しいnanoの薄さと液晶の綺麗さに驚いたけど、
そんな顔するなよ。

と言う訳で家人の初代iPod shuffleを借りた。
昨日までは甲斐バンド、シオン、DYLAN、STONESの全アルバム、その他諸々をぶち込んで持ち歩いていたのに、これはたった120曲しか入らない。
(どうしようかなあ)と思案しながら入れたのは、SIONの新しい順での120曲。
朝のラッシュが終りかけた急行に乗って、独りだけの秘密に時めく感じで鞄から出した。
そしたらこいつがいい!
まず小さくて軽い。
首からかけるのは今日のカッコには合わないから止めた。
今聴きたい気分で選んだ120曲が沁みる。
「全カタログを持ち歩ける」「その日の気分で選べる」「全然聴いていなかった曲がシャッフルで飛び出して来る」
それはそれで素晴らしいけど、これも何かいい。
“足るを知れ”ってやつか。
とは言えもうすぐ、観れなかった腹癒せの甲斐バンドの紙ジャケ再発17枚+新ベスト1枚の計18枚一気買い分が届くからな。
足りないものは足りん!

でも好きなアーティストのアルバムが出ると、女もテニスもほっぽらかして家に帰って、ステレオの前に座り込んで朝まで何回でも繰り返したこと、WalkManを手に入れたら入れたで、どこでも同じ様に繰り返し聴いていたこと。
あの感覚は今でも残ってる。
流石に家に飛んで帰っても、スピーカーの前に座り込んでもないけど、新譜が出ればバーのカウンターで毎晩聴いてるし、iPodはリピートかけて聴いてるよ。

そんな初期衝動で言うと、初めてテニスコーチとしてコートに立った時の事も覚えてる。
それまで選手としてしか立って来なかったコート。
違和感は感じたけど、自然とデカイ声が出て、選手の時と同じ様に一生懸命ボールを追って、子供達と笑い合って楽しかったな。
そう、テニスコーチってのは打ち合って、ボールメイキングして、あるいはスコアメイキングして選手を育てて行く。
俺等をガキの頃相手してくれた“白髪ジジイ”は今も現役コーチ。
今度飯でも奢ってもらいに行こう。

話は戻って又iPod。
Shuffleのキャパに合わせて、初めて落語を入れてみた。
まともに聴くのは小学校以来だ。
電車の中で笑いそうになってコートの襟を立てて表情隠して聴いてたけど、すんげえ表現力に舌をまく。
お題は「しじみ売り」に変わった。
改札を出て地上に出た辺りで最後の佳境に入った。
歩きながら泣いちゃったよ。
(参ったな……)と歩いてたら、最後のオチで笑わされて泣き笑い。
こりゃはまったな。

2007.1.9
Kyounancho2
カテゴリー:KAI
01/10 17:38
02

Scene 200 [Shout Out Loud]

そして又あっさりと年が明けた。

夜な夜な呑み歩くくせにお年取りだけは毎年自宅。
更に今年は、元旦に近所の神社に行く以外はどこにも行かないと決めてたんで、ウコンと胃薬で武装してエビス。

とは言え“泣く子と地頭には勝てぬ”で、せがまれて寒々しい元旦の公園でテニス。
ちょっとアドバイスするとすぐ上手くなる子供の可能性に驚き、嬉しくなりながらも焦りが突き上げる。

「子供のハンスが学ばなかったことを大人のハンスはとても覚えられない」ドイツ諺

スポーツ界では、人間の成長の中で一度だけ訪れる神経系の発達が著しい時期の5〜8才を【プレ・ゴールデンエイジ】と呼び、新しい動きを見ただけですぐに身に付けることが出来る9〜12才を【ゴールデンエイジ】と呼ぶ。
諺は、【プレ・ゴールデンエイジ】の時にあるスポーツの基礎技術を繰返し反復した子供が、その年齢としては上手になったものの、多種多様な動きをトレーニングして来た子供に、 次の【ゴールデンエイジ】の時にあっさり追い抜かれてしまうといった例え。
テニスなら12才迄に、出来る出来ないは別にして全ショットを体感する必要がある。

でもここでも“泣く子と地頭には勝てぬ”で、本人達がやる気がなければどうしようもない。
(こいつらがずっとテニスが好きでいる様に接して行かないとな……)
改めて“好きこそものの上手なれ”と実感する。
でも(時間がない!)と焦りつつも、他の事にかまけたりダラダラするんだよなあ。

「時間がない」と言えば年末にこんなことがあった。
ある席で[不都合な真実]の話になった時、女子大生数人は「読んでみたいんですよ」という反応を示し、社会人数人は「(本そのものを)知らなかった。読む気はない」という反応を示した。
このままだと間違いなく孫世代の時、地球はやばい。
いや子供世代か、いやいやもうそのやばさに直面してる国、人々がいる。
それでも拝金主義のエンジンは止まらない。
わかっていても止まらない。
呆れたことに、温暖化で解ける夏の北極海の氷の下の資源を沿岸各国が狙ってるらしい……。

女子大生と社会人の反応の差はたまたまかもしれない。
だけど世のビジネスマンは、「仕事だから」という殺し文句に本能や感性が犯られてないか?
そしてプロテニスコーチ諸氏、頭数を数えるのに夢中で、子供達の「今しかない」機会を奪っていないか?
一方通行の垂れ流しの情報を受け止めるだけじゃダメだぜ。
自分の足で歩いて探して、自分の目で見分けて、自分の耳で聞き分けて、自分の鼻で嗅ぎ分けて、口をデカク開けて叫んでみろよ。

2007.1.1
Tanashi3
カテゴリー:Tennis
01/03 16:47
03

Scene 199 [それさえあれば]

「(プレッシャーとは)便利な言葉だ。プレッシャーに押し潰されたと言えば言い訳になるし、逆にプレッシャーを感じながら頑張ったと言えば美談になってしまう。マスコミもそうだが、選手も安易に使いすぎるのではないか。他の国ではまず聞かない言葉だ。プレッシャー・イコール・競技をするということなんだから。ウチの選手にはプレッシャーなんて逃げ道は与えない。その中で何をやるかを模索させる」

オシムでもジーコの言葉でもない。
図書館でタイトルを目にして、懐かしさと変わらないシンパシーから手に取った本の中の、1993年の“ある監督”の言葉。

試合のコートに入った瞬間にふっとトランスする自分が好きだった。
団体戦では応援は他の試合に廻して、自分は相手の応援に囲まれてやるのが好きだった。
その試合中に、下手なくせに汚い応援をする馬鹿をビビらせるのも好きだった。
テニスが好きだった。
女と待ち合わせて学校行く様になって毎日していた朝練をやめたり、バンドを組んでスタジオに入り浸っても、何だかんだ言って毎日テニスしていた。
今考えればどんなスケジュールだったんだ-!
まあとにかく、プレッシャーを楽しんでたとまでは言わないが、プレッシャーがある故に冷たく熱くプレーしていたんだ。

クリスマス直前の代官山に奴とSIONを観に行った。
ギタリストの松田文と二人のライブ。
当日券で入っただけあって、バーカウンター前で人の頭と頭の間数十cmからステージを観る。

“波打ち際で 砂の城を作って 波にさらわれ 崩れ 溶けて 消えて だからまた作る 悲しくはない これが好きだから 悲しくはない これが好きだから” 砂の城/SION

心の底から好きなら全てがそこを中心に動き出す。
それはテニスだろうが音楽だろうが恋愛だろうが同じだ。
でも心の底から好きだったはずのものが、いつの間にか自分のイメージとかけ離れてしまっている時もある。
更には大嫌いなことで喰って行かないといけない時もある。
そんな時に「あいつの為に」と踏ん張れる相手がいれば、「あの為に」と唇を噛みしめられる夢があれば……。
数十人いるプロテニスコーチに「自信を持って『俺は練習している!』と言えるか?」と聞いたら、たった一人がバツが悪そうに手を挙げたという話を聞いた。
そいつの心情を想うとやり切れない。
手を挙げられなかった奴等に「テニスさえあれば」という気持ちはあるんだろうか。

“それは食うためだったり 生きるためだったり 明日のためだったり 夢のためだったり 大事なお前のためだったり 約束だったり それがあれば それがあれば それだけあれば それさえあれば” それさえあれば/SION

さて冒頭の台詞だけど誰だかわかってたかな。
燃える男、ミスター、背番号3、90番、33番、チョーさん等々、ありとあらゆる場面で語られている男。
勝手な想いいれだけでなく、スケープゴート役さえも受け止め、揺るぎないOnly Oneの役割を演じ続け、引き受け続けてる最高の男。

「俺にはそれ(努力)しかないよ。立教時代、それからプロへ入団した当時、ノックやランニングや真夜中の素振りで、もうほとんど眠らなかったでしょう。瀧、知ってるよな。だからもう、体中がパンパンに張っていて、きたない話だけれど、座ってクソができなかったから……だから立ったままですよ。洋式ではなかったからな、足元にある小さ目の便器に向かって立ちグソですよ。それ位の練習をして技術を身につける、それなら本物になりますよ」

裏打ちのある男しか信じない。

2007.12.23
Daikanyama

※文中の台詞は【1993年 史上最強の「長嶋茂雄」読本!】から引用
カテゴリー:SION
12/27 14:44
04

Scene 198 [ひらひら]

誰でもこんな事を言った記憶があるだろう。
「だってみんな持ってるよ」
そして親父やお袋にこう言われた。
「みんなって言ったってカズヤとカッちゃんとトモちゃんだけでしょ!-」
ガキの時の"みんな"ってのは、小さな子供社会の中の更に小さな仲間のこと。
今考えればあながち嘘じゃなかったって気もする。
公園、空き地、校庭、駄菓子屋……日替わりのチープ・スリル。

「だって皆言ってますよ!」
若いコーチが口をとがらせてる。
どうやらスクールの新しい方針が気にくわないらしい。
こいつはいい奴なのに、何か変化があるといつも後ろ向きになる。
アイデアに溢れてる奴は、「こうしたい」「こうすればいいんじゃないか?」と、いつも前を向いて希望と提案、そして自分を語る。
アイデアに乏しい奴は、「前はこうだったのに」「あの人はこうだったのに」といつまでたっても後ろ向きに失望と不満、更に他人の批評と批判を繰り返す。

(まあ根はいい奴だからな)と諭しに入る。
「あのさあ、お前の言うみんなって何人?」「えっ……。あの人と……」「まあいいや。じゃあ話を変えて、お前の担当してる人が何人退会しちゃったら(うわっ!沢山やめちゃった……)って感じる?」「5人ですかね」「ふむ。大体この手の質問には5人か10人って答えるもんなんだよな。で、お前の担当人数は?」「今月は帰省で定番減らしてもらったんで30人です……あっ!-」「気付いたか?多い少ないの感覚なんてそんなもんなんだよ。もうガキじゃねえんだから、“みんなが”なんて幼稚な物言いしないで、もっと自分の考えとか突っかかって来いよ」「なるほど俺ってダサダサ君ですね。今晩呑みに連れて行って下さい!」「あのなあ……」

ある程度任せられる様になった奴に必ず言うことが二つある。
「人は3人以上になれば組織」
「何で女性週刊誌とか写真スキャンダル誌が売れるか」
最初の「人は3人以上-」は、やっぱり皆ガキの頃から経験してること。
仲良しの二人はいつも一緒で、こっぴどく喧嘩をしてもすぐにわかり合って仲直りしてたのが、そこに一人加わることで(相方をとられちゃうんじゃないか……)と疑心暗鬼になったり、二人だったら面と向かって言っていたことが、一人入ったことで愚痴ったり、陰口を言い出すってやつ。
次のはことある毎に話すかな。
殆どの奴が“語れる自分”ってのがなくて、他人の話で盛り上がるしかない。
その話もいい話だと「スゴイよねえ」「エライねえ」と一言二言で会話が続かないけど、悪口系は延々と続く。
悲しいけどそれが世間ってやつだ。
だから俺達みたいなスペシャリストはそうなっちゃいけないし、スタッフがそうならない様に導いてあげないといけない。
それでもガス抜きが必要になる時がある。
誰かが不平、不満を持っているのがわかったらそれを口に出させて、後はそれを上手くオフィシャルにして皆の問題としていい方向に持って行くしかない。

しかしまあこれはメビウスの輪だな。
気の置けない仲間がいて、酒が美味くなる行きつけのバーがあるだけで幸せってことにしておこう。
今晩は久し振りに拓郎でも聴くか。

2007.12.20
Kitasando
カテゴリー:word
12/20 15:07
05

Scene 197 [裸の王様]

「ぜったいダメです」
「やってはいけません」
「しつれいです」
「わるいですよ」
担任からガキへのコメント。
ご丁寧に赤ペンで書いてある。
良くもまあここまでネガティブな言葉を子供相手に羅列出来るもんだ。
確かに行き過ぎた暴れん坊のガキが多々悪い。
でも親バカとは縁遠い俺でも、流石に家人の「先生変えてほしいよ」という嘆きに頷いてしまう。
昨日はガキが友達を叩いてしまったら、先生が保健室に行かせたとの事で、夜に相手の親御さんに電話。
「本人は何も言ってないしどこも腫れてませんよ。あの先生は男の子が嫌いみたいですね。参観の時も露骨でしたし。今回も叩く前にかなりストレスためさせられたんじゃないんですか?」

学校はやめれないから生徒は来る。
テニススクールはやめられる。
それでも文句も言えず、他の習い事同様に(つまらないなあ……)と感じながら通い続けてる子供達もいるんだろう。

「ほらっ!急いでるんだからさっさと来なさいよ!」
駅や街中でいらいらして目くじらたてて子供に怒鳴るお母さん。
そんな世の中の大人同様に、自分の思い通りに子供が動かないだけで怒るコーチを何人も見て来た。
大人は「叱る」が「怒る」になり、子供が「素直」でなく「服従」する事に満足する。
子供は「無邪気」から「不安」になり、そして「不満」を仮面で隠す。

「被害者意識」はタチが悪い。
本人のみが常に悲劇の主人公で、論理はいくらでもすり替わる。
「私だけ……」「私だって……」と「貴方だけ……」「貴方だって……」……。
はっきり言ってそんな奴は相手にすることはない。
だがしかし、「急いでるんだから!」と怒るお母さんと「別に行きたくないもん……」という子供、「こっちはちゃんとレッスンしたいんだから!」と怒るコーチと「だって上手く打てないんだもん……」というジュニア、この被害者意識ペアはやばいだろ?
群衆の中の一人と一人ならまだしも、本来は最高の“仲間”なんだから。
親、指導者は与える喜びを感じれる様にならないとね。
胡散臭いボランティア精神はいらない。
子供の無邪気なエネルギーに負けないパワーと、繊細な心の不安と不満を受け止める懐の深さ、そして天の邪鬼な悪戯を叱って気付かせる思いやりだけでいい。

なんて偉そうな御託を並べるだけ並べて、“裸の王様”は今夜も家に真っ直ぐ帰らずゴールデン街に行きましたとさ。

2007.12.12
Shinagawa
カテゴリー:word
12/13 17:20
06

Scene 196 [激愛-パッション-]

有明のクラブハウス前の旧センターコートに約1,000人が集まってる。
なかなか凄いが、テニスコート2面だと1,000人入ってもまだまだ余裕はある。
改めてテニスコートって広いんだなあと実感。

開会式後約1,000人が有明全面に散らばって団体戦開始。
流石に1,000人いるだけあっていろんな人がいる。
耳が不自由な方が多くちょっと驚かされる。
試合を観ていると反応も良く更に驚かされる。
そしてその中で微妙なジャッジを繰り返す人がいたり、ちょっと嫌味なプレーをする人がいて、(そういう事もするんだ-!)と感じてる自分に驕りを感じて苦笑い。

試合はミックスダブルス3試合の団体戦。
ジュニア時代にミックスダブルスを殆どやって事がないからか、途中から何か羨ましくなって来たりして……。
とにかく楽しそうな姿に心が暖かくなった。

翌々日時間が取れて、雨上がりの公園のコートにガキ二人を連れて行った。
「冬場は4時迄だから後1時間しかないですよ」
「1時間だけでOKなんでいいです」
「3時間単位じゃないと貸せないんですよねえ」
「え-っ!1時間分払うからいいじゃないですか」
「まあ黙ってるから遊んで来て下さい。3番でもどこでもいいから」
おじさんはガキに笑顔を向けて事務所に戻って行った。

奇麗に紅葉した木々に囲まれたセンターコート。
ノーバウンド、ワンバウンド、ツーバウンド関係なくラリー。
冗談で打ち込んだボールを長男がまぐれでストレートにエース。
娘がネット際から打つサーブ?がエース。
楽しい。
でも神経の奥の方で、(やっぱテニスはサーブ、レシーブだ。ジュニアのレッスンでのボリュームを増やさないと!)という想いが沸々して来る。

そして又その翌々日。
今度はある小学校の体育館。
子供達の発表会を観てる。
つたない演技、はにかむ姿、あっけらかんとした態度、緊張した子をフォローするひそひそ声。
いずれも大人の世界じゃ冷たい視線に晒されかねない仕草がいい。
俺達は見栄張って、見下して、挙句の果てはそれで自分を苦しめてで、全く何してるんだろ。
子供達の演技の意味が通じづらくて、大人達が反応出来ない気まずい雰囲気が漂いかけたその時、最前列で観ていた女性の校長が意味に気づき「クスッ」っと笑った。
ふーっと空気が暖かくなり、拍手が起きた。

“愛しかない 世界ゆらすのは”KAI FIVE

2007.12.5
Yato
カテゴリー:KAI
12/06 16:45
07

Scene 195 [Eight Days A Week]

呆れた。
子供とテニス出来る場所がない。
アメリカなら金さえ出せば何とかなったがそれさえも無理らしい。
ガキの頃入会していたクラブを訪ねてみたが、「お父さんはクラブに入会出来ますけど、お子さんは他の方のご迷惑になるのでスクールのみOKです」……。
おいおい、俺が日本にいない間に日本テニス界は、いや日本は、寛容さとか包容力を失っちまったのか。

そんな事を考えてた歯医者の待ち合わせ室。
後から幼子二人を連れたお母さんが入って来て、2歳位の娘に童話の読み聞かせを始めてほのぼのとした空気が流れ出した……と思いきや余りに声がデカ過ぎる。
でもそこは子供との大事なコミュニケーションだし、童話だから長い訳ないしとスルー。
すると今度は小学校高学年の女の子とお母さんが入って来た。
長椅子の一人分の空きスペースには小学生の女の子が座って、一緒に来たお母さんは立って本を読み出した。
そしてまだ3才位の男の子も小学生もDSを始め出した。
子供に席を譲らせない親と、空いてる席に自分でなく大きな子供を座らせる親。
どっちもどっちだな。
物は与えられても彼等に本当に必要なものは与えられない。

結局ガキとのテニスは土曜のレッスン後のコート。
奴は独りで電車に乗ってはるばる横浜まで、俺の土曜の最終レッスンを受けに来る。
そのレッスンが終って日付が変わる頃から、俺達のテニスが始まる。
真夜中の誰もいないテニスコートで、小学生6年生の息子とテニスしているのが幸せなのか不幸せなのか知らんが、とにかくこの一瞬の為に毎朝7時から26時迄働いてるんだ。

そして今日蝮谷。
日本テニス界の未来が見たくて仕事を調整してやって来た。
学生達が明るくきびきびと動いて運営しているのが気持ちいい。
知り合いの若いコーチが、アルバイトコーチを連れて観戦に来てるのを見つけて嬉しくなる。
古い悪友が何とか最終試合に間に合って横に座った。
客席は満員とは言えないが、平日の午後でこれなら十分だ。
派手なプレーがある訳でも、割れる様な拍手がある訳でもないが、選手の真剣さと観客の質の高さが心地よい緊張感を生んでいる。
試合後懐かしい顔を見つけて話しかけたら、奴は今はこの大学の助監督。
全くテニス界は狭い。
そこに加わって来たトーナメントディレクターの総監督に挨拶してコートを後にした。

「蝮谷の階段ってこんなにきつかったっけ-!」
「とりあえず呑みに行くか?」
「そうしたいんだけど、昨日トラブっちゃってて会社行かないとなんだ。お茶でどう?」
「そりゃ仕方ないね」
「しかし本当きついな、この坂」

2007.11.22
Mamushidani
カテゴリー:Tennis
11/29 15:01
08

Scene 194 [隣のテーブル]

横須賀迄帰る友人が帰って独りのカウンター。
小野リサのボサノバが心地良い。
最近心を痛めてる事をマスターに話してみるが、自分に有利に話をしている気になって話題を変える。
そこに常連が入って来た。
いつも通りデカイ声でマスターに話かけだす。
あまりに声がデカイのと、誰と目を合わす訳でもなく、ちょっと顎を上げてマスターの頭の上のボトル棚を見ながらって感じの話し方で、横から茶々を入れる気にもならない。
でも他の客にテンションは出してるんで、マスターがトイレに行って二人だけになると居心地悪そうにしてる。
マスターが戻って来るや否や又話出す。
(もういいや……)と席を立った。

この間読んだゴルフの本にこんな言葉があった。
「隣のテーブルに会話をこぼすな」
レストランでの食事、ラウンジでの一杯がセットになってるゴルフらしい言葉だけど、正くその通りだ。
まあ色艶がない声の奴は、大体が夜を泳ぐセンスがないから仕方ない。
「お前は昼の世界じゃ無力なくせに」と言われればそれまでだが。

でもね、隣のテーブルならまだいいんだよね。
これが同じテーブルだと……。
テニスって名のテーブルで目がドルマークになってる奴と話すのは気分が悪い。
小手先の話じゃなくてもっともっと大きな話をしないとだ。
とは言え目がドルマークになってても、テーブルにつくだけの活力がある奴は心の奥底にテニスへのシンパシーが垣間見える。
問題はテーブルについても話さない、いやテーブルにつけない奴だ。
「育児に大切なのは関心と時間」と言われる。
「育児」を「育成」に置き換えてもそれは全く同じだ。
あのガラガラの全日本の客席。
首都圏の指導者、選手の何%が観戦に行ったんだろう。
「関心と時間」の両方は必要じゃあない。
「関心」があれば「時間」は作れる。
「無関心」だから「機会」を作らないんだ。
そういう奴に限って俺等の見知らぬテーブルで陰口を叩くから始末が悪い。

バーに寄る前の呑み会で、隣にいたテニスクラブオーナーの携帯が鳴った。
クラブに良く練習に来る選手からの全日本優勝報告を兼ねてのお礼の電話だった。
「良かったですね」と答えるのを見ていて幸せな気分になった。
もうちょっとこのテニスってテーブルで呑んでみるか。

2007.11.21
Nishishinjuku1
カテゴリー:Tennis
11/22 11:30
09

Scene 193 [破れたハートを売り物に]

「でもハートが破けたら又くっつければいいんだよね-!」

まだ娘が2-3才の冬だったか、今はどでかいマンションになってる自宅側の工場の万年塀沿いを散歩してた時の一言。
ガキって奴はキャッチーなメロディ、言葉、リズムに敏感だ。
俺が聴いてる古い歌の中でも、教えた訳でもないのに流行った歌に興味を示す。
良く「あいつらは売れ線狙いで-」と皮肉ったりするけど、それは頭でっかちな感性かもしれない。
まあとにかく娘と手をつないで、「♪破れたハートを売り物にして 愛に飢えながら一人さまよってる♪」と唄ってたら、「ハートって破けるの?」と聞いて来て、「うん、大きくなって悲しい事があると破けるんだよ」って返事した後の娘の一言。
恋の痛手を受けちゃあ、しょっちゅう世界中の悲しみを背負った様な面してたくせに、確かにあの頃何度も破けたハートはくっついてる。
とは言え、喜びはリアルに蘇って来ないのに、痛みって奴は瞬時に蘇って俺をあの時に連れて行きやがるからな。

「お前さ、蝮谷のチャレンジャー観に行くんだろ?」

古いテニス仲間からの電話。
US OPENに憧れてNYに渡って紆余曲折で今日本テニス界に帰還した奴。
ずっと歯を食い縛ってジュニア育成して来て、今トラブルをラッキーなターニングポイントにしつつある奴。
そして俺。
「頑張ってたよ」なんて慰めをされれば睨み返してた頃からの付き合いの俺等は、「大学から世界を!」という大会を観ながらどんな話をするんだろう。
俺は今、夢の形がすり変わってしまう事があるのも知ってる。
でも無様でも夢というナイフを腹の中に呑んでいられるのも知ってる。
そしてその夢がてめえを諦めの悪い臆病者にすることがあるのも知ってる。
そんな俺でも「若手男子にチャンスを!」という運営サイドと、単純に勝負に賭ける選手の熱い想いにグッと来るんだろう。

そして今夜。
俺は奴とガキ二人、四人で渋公の最前列ど真ん中にいる。
耳慣れたストリングスのイントロが流れて、シンガーがGibsonのアコギをかき鳴らしながら唄い出した。
ガキが横でニコニコして手拍子を取りながら、♪破れたハートを売り物にして♪と唄ってる。
1981年、ませてから初めてのハートブレークをして、次の恋に夢中になって学校が終ればいつも神宮外苑に駆け付けてた秋に出た歌。
オリジナルはシンプルな歌詞とメロディに溢れ出るアフリカンパーカッション。

“生きることを素晴らしいと思いたい”

あの頃どこにでも書きなぐってた言葉。
そうなんだよな。

2007.11.11
CC Lemon Hall
カテゴリー:KAI
11/15 10:27
10

Scene 192 [猿]

“何でもできると思ったのは 何にもしてない時だった 猿みたいな顔で生まれ 猿みたいな顔で死んでゆく 何でもできると思ったのは 何にもしてない時だった 肩を怒らせ睨みを利かして 何か怖いものでもあるのかよ” 猿/SION

「お前さあ覚えてる?リハ終った後とか呑んでるとお前が急にいなくなってさ、俺とあいつでいつも金払ってたの。生まれも暮らしもパンクじゃないくせにルードボーイ気取ってたにせよ、こっちは惨めで、全く酷かったよ」

「あなたの才能を信じてずっと応援してたけど、あなたはいつも私が傷つく様な言葉ばかり投げかけた。それはもういいけど今も自分を信じれてるの?」

「俺はお前に一生付いて行こうと思ってたんだぜ」

「何だかんだあんたの彼女全部知ってるけど、皆いい子ばっかだったよねえ。あんたが酔っ払ってる陰でフォローしたり。そういうのわかってんの?」

“明日にまわせる明日はもうない 泣こうがわめこうがもうない 誰の顔が浮かぼうが消えようが 誰が生きない奴の為に生きるか” 猿/SION

「“インハイ迄で選手を止めた俺なんて”と言いながら、それなりに広い顔でいい気分になってるんじゃねえだろうな。“あのタレント俺のダチのダチ”って言ってる奴と一緒になるなよ」

「相変わらず細いパンツ穿いてるじゃん。まあ俺は今じゃ太っちゃって薄くなって来てだけど、その分お前よりもらってるってはずだ。お前いくらもらってる?そうだな、そんなもんだ」

「“金じゃない”ってのはカッコいいけど、今のお前がいる場所はどう見てもそうじゃない。スーツ着る様になったらなったでWhite-Collar気取ってるんだろうけど、いい加減外見と中身、外面と内面のギャップを何とかしたらどうだ?」

「同居でもめてるって言ったって、そんなの見え見えの話だし、そもそもお前にはお袋さんの血が流れてるんだから、お袋さんと同じことをお前もどこかでしてるんだよ」

“何でもできると思ったのは 何にもしてない時だった 猿にも劣る思いやりと 猿にも劣る学習能力で 何でもできると思ったのは 何にもしてない時だった 肩を怒らせ睨みを利かして 何か怖いものでもあるのかよ”猿/SION

死んだ親父が何度も俺に繰り返した言葉は“自分を大事にしろよ”。
焼酎を呑みながら目はTVの方に向けたままつぶやく様に言ってた言葉を今口にしてみる。
あいつと二人のガキ、“おれの家族”の顔が脳裏に浮かんだ。

2007.11.3
Enmeiji
カテゴリー:word
11/08 16:47
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